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藤井フミヤさん「音楽は寄り添うもの、アートは最先端」 延岡での個展を語る

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今年歌手活動40周年を迎える藤井フミヤさん。9月から2024年5月まで全国ツアーで47都道府県を回るが、1993(平成5)年、CGアート作品による初の個展を開いて以来、国内外で作品を発表し、アーティストとしても注目されてきた。

2019年に東京で16年ぶりの個展「デジタルとアナログで創造する藤井フミヤ展 多様な想像新世界」を開催し、初期のCG作品のほか、油彩、水彩、切り絵、貼り絵、ボールペン画、シールや針金を使った作品などさまざまな表現方法で描き上げた作品を公開する。今回の宮崎・延岡会場では約70点の作品を展示。藤井さんにアーティスト活動や今回の展覧会について、また延岡の印象などについても話を聞いた。

 

――今回、およそ70点の絵画が展示されていますが、自身にとってこれだけの点数が一度に集まるのは、やはり特別なことですか?

藤井フミヤさん「会場には70点しか出てないですけど、倉庫に入っているものも含めたら、今回は120点くらいあるんですよ。この展覧会が終わったら、もう集まらないかもとも思います。人から借りているものもありますし、今後売れてしまえば、方々に散ってしまいますから」

――展示する作品を選んだのはフミヤさんなのですか?

「僕は選ばない。アートディレクターが選びました。自分が選ぶとなんか偏っちゃうので、だから逆に他人にお願いします。自分だとやっぱり好きなものになっちゃうよね」

■女性を描いた作品が多い理由は?

――どの作品が一番好きなのか気になります。

「そのときの気持ちにもよるんですけどね。歌でもそうなんだけど、出来のいいもの、悪いものというのがあって。でも、これも不思議なもので、『まあまあだな』と思って出してヒットしたら、それはそれで良しになる。絵も、まあまあだなと自分で思っていたものを周りから『これすごくいい』って言われると、ああそうなんだ、みたいに感じます。だから客観的に見た方がいいのよ。(アート作品は)スポーツ選手の試合みたいに、数字で結果が出て、日本新!みたいなものではないですからね。自分の中で何かこれが好きっていうだけですね」

――女性を描いた作品が多いですね。

「多い、多い、多い。もともとは西洋の宗教絵画などの影響が大きくて。それらで描かれる女性のラインがきれいだなと思って…。男性も描いたことがあるけど、何か描いてて乗らないっていうかね(笑)。今一つ凹凸も少ないし。まあ、ミケランジェロとかはね、男性が好きなんだろうけど」

・ボールペンで描かれた「ボッティチェリへのオマージュ 『Venus and Mars』の模写」

――絵画に親しんでいたのは、歌手としてデビューする前からですか?

「いや。宗教画のような絵画を見るようになったのはデビュー後だと思うね。若いときはね、もっとポップアートに興味がありました。それこそアンディ・ウォーホルとか。缶詰の絵を描いて『え、これもアートなんだ』みたいなね。

80年代は、日本のイラストレーターも結構活躍していたんですよね。吉田カツとかさ、いろいろいましたよ。あの頃は『イラストレーション』っていう雑誌も毎回買ってたもんね。だから、イラストレーターに憧れていた。憧れる『横文字職業』ってあったよね。コピーライター、スタイリスト、ファッションデザイナー…。だから、画家というよりはイラストレーターの方がかっこよく見えた」

――そのころはもう、自身で描いていたんですか?

「描いてたよ。チェッカーズのチケットやダンパ(=ダンスパーティー)の券とかをデザインしたり…」

■「音楽は寄り添うもの、アートは最先端」

――「クリエーティブ」という意味では音楽も絵も同じなのかなと思うんですが・・・。

「うんうん。音楽は、自分がやってるのはポップス、ポップミュージックなんで、やっぱ大衆に寄り添うもの。音楽って基本的にクラシックも、ショパンとかモーツァルトの時代からもう愛しか語らないんですよ。愛を語るもの、愛を語る道具。

音楽は小説や映画みたいに、いきなり人を3人殺したとか、そんなとこから始まらないんですよ(笑)。だから、音楽っていうのは、素は安心できるもの。好きになって、自分のものにしちゃうっていうかね。最終的には歌うからね、日本人の場合はカラオケに行って。常に寄り添うものは音楽。

今は何千曲ってポケットに入るしね。昔は持ってるものしか聴けなくて、CD100枚持ってたらその100枚しか聴けなかったけど、今はもう(サブスクで)何万曲と持ってるでしょ(笑)

絵はね、なかなか現物は家には来ないよね。誰もがピカソを持ってるわけではないし。美術館に行って見るとか、そういったものだろうけど、例えば、(ジャン=ミシェル・)バスキアが出てきたことによって、Tシャツのデザインがめっちゃ広がったと思うんですよね。子どもが描いたような絵がTシャツのデザインになったとか、広がりを見せる。だからアートは未来のようなものも作っていく…。常にいろいろな意味で、最先端なのかもしれないですね」

――音楽より制限がなくて、自由ということですかね。

「もう自由極まりないっていうね(笑)。その辺の障子をばーっと刀で切って、額装したらそれがアートだって言われる。現代アートで『狂気を表してる』って言ったら、『はあ、そうなんですか』みたいになるじゃん(笑)」

――フミヤさんはそういう現代アートはやらないですか?

「さんざん見てきたけど、難解すぎてよく分からない(笑)。何にもない白いキャンバスがすごい美術館に飾られてたりするからね。だいたい小学生が見て、『これ俺もできる』って言うよね(笑)」

――現代アートに対する、そういう感覚をお持ちだから、私たちはフミヤさんの絵に親しみを感じられるのかもしれません。

「意外とね、俺のアートはポップだと思いますよ。音楽もポップスだけど、分かりやすい。女性のモチーフとか」

――ポップなのが「藤井フミヤらしさ」なんですかね?

「そうかもしれないですね。音楽に関してはね、作詞、作曲もするんですけど、自分はシンガー、歌手だと思ってて…。ミュージシャンというのはやっぱり譜面と音符を操れる人だと思ってる。俺はあんまりそういうタイプじゃないんで。絵に関しては一応アーティストなんでしょうね。画家という職業ではないので」

・延岡城・内藤記念博物館西側入り口にある大きな展示案内板

■「音楽とアートで“人生パンパン”」

――今後は「アーティスト・藤井フミヤ」としての夢はありますか?

「この年になると大それたことはもう考えない。めんどくさくて(笑)。大きな夢は持ちたくないっていうね。『ちょうどいいくらいがちょうどいい』っていう感じになってる。でもやっぱり、絵を描くことはすごく好きで、歌を歌うこともすごく好きなので、まあこの2つでも『人生パンパン』みたいな。

人生って時間なんでね。1日24時間しかないし、一月は30日で、一年は365日。だから、こう2つやってたら、もうパンパンですね」

――じゃあこれをやり続けて…。

「そうですね。死んで行くっていう(笑)」

――おこがましい言い方になってしまうかもしれませんが、フミヤさんはいい感じで年を取られているなという感じがします。

「そうですねえ。うん、歌うためにはね、健康でいなきゃいけないんで、いろいろだから健康にも気遣うしね。だから、まあ、絵を描くと言うことは一人の時間だしね」

――絵は一人。歌はやっぱり…。

「音楽はやっぱり他にも人がいないと成り立たないんで」

――そのバランスもいいんでしょうか。

「ちょうど良いですね。うん」

■藤井フミヤが感じた「延岡」の印象は・・・「平和」

――オープニングセレモニーのときに、延岡のまちについて話してくださってうれしかったです。延岡に久しぶりに来られたんですね?

「12年ぶり。テレビ番組の撮影で高千穂に行きました」

――延岡のまちを歩いて、ギョーザを食べたという話も耳にしました。

「おいしかったね、あのギョーザ。
ここは『平和』っていうこの2文字を絵に描いたようなまちですね、ほんとに。このまち、悪いことを考える人、いるの?みたいな」

――いるとは思うんですけど(笑)。

「あははは(笑)。いないことはないとは思うけど、なんかそういうふうに見えてしまうまちだよね。まず、自然というものにおいては、海があって、空が広い。緑もある。で、昔は城下町だったというような歴史もあって…。都会の喧騒(けんそう)からかなり離れてる土地だからっていうのもあるよね。のんびりとして、平和な感じがする」

――滞在先や行った店で、人と接してみて感じることはありますか?

「うん、感じる、感じる。すごく。日本風の平屋が多くて、昭和の雰囲気もあるよね。みんな長生きしてんだろうなっていう(笑)。俺んちの実家みたいな建物が意外とあるな、みたいな。俺のおやじと同じ年代の人たちが建てた家なんだって思うと、建て替えてないってことは、まあまあ長生きしてんのかな、みたいなね。街並みの中に昭和の空気感がありありと残ってるよね。高度成長期の、その頃は栄えていたんだろうなという空気感がね」

――それが平和という言葉につながったんですね。

「うん、そうだね。特にいま世界を見ると戦争をしてるから。ああいうまちと比べると、絵に描いたような平和だよね」

――延岡で藤井フミヤ展を見る人に、メッセージをお願いします。

「若い人に見てもらって、自分の新しい発想、ものづくりのきっかけにしてくれるのがいいなと思います。いろんな道具で作品を描いてるんで、その自由な感じを見た人が自分の中に取り入れていってもらえれば。

しかも、展示会場はとてもポップな空間になってるから。壁の色やデザインも、フォント一つとっても、めっちゃこだわってるから、学ぶべきところが多いと思う。普段は施工をやっている人や内装をしている人にとってもね。

ものをつくってる人間っていうのは常にアンテナが立っているから、例えば新聞のチラシでも見逃さない。いろんなところにアイデアは落ちているから。音楽の方は歌だから歌詞も書かなきゃいけないんで、チラシには文章もあるから、文字も見逃さない。だから移動中はほとんど活字を読んでるね。本を持ってない日はない。

小説ということもあるし、今は日本の歴史書を読んでる。大東亜戦争に入ってますね。まあとにかく、寝てるとき以外はアンテナが立ってるっていうのが多分、アーティストだと思う」

【展覧会情報】

「デジタルとアナログで創造する藤井フミヤ展 多様な想像新世界」

会期:2023年5月13日~7月2日

会場:延岡城・内藤記念博物館

開館時間:9時~17時。月曜休館。

観覧料:一般1,000円、高大生500円(要学生証)、中学生以下無料、障がい者とその介護者1人は無料(入館の際に障がい者手帳の提示が必要)。マイナンバーカードの提示で100円割引となる。

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